月夜見 “一年の計は…”

      *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより
  


 お正月と言えば何をしますか? どれだけの“恒例”を思い出せますか? 初詣でに初日の出、年賀状、お年始回り。おせち料理に、お屠蘇にお雑煮、お年玉。書き初めや何や、様々な“事始め”は元日にはやらないとかで、茶道の初釜も、蹴鞠の奉納や通し矢なんてのも もっと後日。追い羽根つきや凧揚げ…は、場所と相手が必要なので、今時じゃあ よほどの集まりの場ででもない限り、やってみるなんて人は滅多に居ないかもですね。

 「初夢は、一日の晩から二日の朝にかけてみる夢のことですよ。」
 「? 大みそかの何やかやの後で寝る晩のが、その年の最初の夢になんねぇのか?」
 「そこだ。親分みてぇに夜中遅くまで起きてられねぇお人は別だが、
  年越しの晩は、
  除夜の鐘を撞いたり聞いたりっていう“除夜詣で”ってのをしたり、
  そっちは寺だが神社は神社で、
  年送りにって氏子が社に籠もったりするでしょう?」

 昔々は、みそかの晩は長く起きてるほど長生きするなんて言われたほどで、それだから、子供でも夜更かしして構わない、寝ないことが前提になってる特別な晩…なのだそうで。これはあまりに外れた余談ですが、その昔はNHKの『ゆく年くる年』に対抗して、民放全部が協力し、一斉に同じ番組を放送していたのを御存知ですか? 違うチャンネルなのに同じCMが同じタイミングで流れていると、何故だか微妙におもしろく感じるような。祇園祭などなど有名な催しの会場へと集まってた記者たちが、同じ時間帯のニュースに向けて一斉に中継先から喋り出すもんだから、場合によっちゃあ よその局の記者の通る声が拾えてて笑えるような。あんな雰囲気を堪能しまくりな。(妙なことに関心が向いてるおばさんですいません。) 全く同じ番組を、少なくともVHFの局すべてが統一して流してた様は、なかなかに壮観でございました。

  それはともかく。

 夜更かししないで、日付が変わる前から寝ていればいたで、前の年最後の夢との区別がつけにくいでしょうしね。そんなこんなで、初夢は元日を過ごしてののち、その晩に寝たときに見るものを指すらしい…なんていう、いかにも時節がらな話を交わしつつ。あちこちの門口で、お年始のご挨拶の声がするのを聞きながら、ご城下の町並みを のんびりとぽとぽ歩むのは。どちらもひょろりと細っこい二人連れ。同心の風車のゲンゾウの旦那の配下で十手を預かる岡っ引き、背中へ提げた麦ワラ帽子が目印の、お元気爛漫・ルフィ親分と、その下っ引きのウソップというお兄さんたちではないかいな。

 「親分親分、今年もよろしくね。」
 「親分、後で寄っとくれ。餅菓子が たんとあるよ?」
 「ルフィ親分、お勤めの後で凧揚げしようよ♪」

 相変わらずに人気の親分、顔を合わせる誰も彼もが明るい声を掛けてくる。正月と言えばという行事の中、このグランドジパングでは、藩主ネフェルタリ・コブラ様が天守閣から餅を撒くという豪気な催しもあって、そっちは元旦、元日の朝早くにこなされたばかり。ルフィやウソップも、ゲンゾウの旦那や奉行所への年頭のご挨拶もそこそこに、ごった返す人込みへの警備に駆り出され。ついでに、撒かれる餅にもついつい手が伸びての、長屋の皆様へというお土産をたんと掻き集めて 一旦帰り。一膳飯屋“かざぐるま”で雑煮での昼ご飯を食しての今は、午後の部の見回りの真っ最中。気張った晴れ着をまとい、連れの小僧さんにお年始の進物抱えさせ、のしのしと歩むお大尽もおれば。いづれかの辻から聞こえる しし舞いのお囃子を追ってだろう、わっと駆けてく幼い子らもいる。昨夜や今朝方は冷えたけれど、陽が昇れば暖かいお正月だねぇなんて。町角の陽だまりで交わされる話し声も和やかで、

 「いいお正月でようございましたね、親分。」
 「まぁなvv」

 初詣での人がお目当ての、縁起物やらお飾り、ついでに縁日の出店も顔を並べてた、神社やお寺の参道の守りや、毎年恒例のあちこちの長屋でのお餅つきや何や。日頃の見回りや、ちょっとした捕り物騒ぎの他に、年末年始ならではなお仕事も、頑張ってこなしたその末に、にっこりとした笑顔で迎えたお正月だ。

 「こんな日くらいは、何も起こらず過ぎてってほしいよなぁvv」

 常の巡回、のんびりとした歩調で進む彼らであり、町ののどかな様子に しししっと楽しげに笑ってる小さな親分さんだが、

 “何にも起きてないような言い方なのが、相変わらずだよなぁ。”

 ウソップが胸の内でこそり、そんな言いようをしたのも無理はない。年末の市場では、巧妙な団結力で荒稼ぎをしていた掏摸の一団を、ごった返す雑踏の中、執念深くも追っかけまくって捕まえたし。大晦日の晩には、札差しの蔵を襲った盗賊団を踏ん縛った。今日は今日で、恒例の餅まきの最中、畏れ多くも天守閣の足元の前庭という場所で、有名な大店、呉服問屋の令嬢を楯にとっての乱心者が出たのを、

 『そんな匕首で脅しながらの鬼ごっこたぁ、新年早々無粋だねぇ。』

 悪魔の実による不思議な術にて、どこぞかの誰か様がその手を封じるよりいち早く。どこからともなく宙を滑空して来た拳が、物騒な刃物を外へと弾き飛ばし、戻って来る反動にのせて、硬直していたお嬢様をば掻っ攫ったものだから。人質がいなくなった不埒な輩は、手が出せぬまま周囲を取り巻いていた善意の衆らに躍りかかられ、タコ殴りの目に遭った末に、番屋まで引っ立てられたとか。そうまでド派手なあれやこれやも、この親分さんにかかれば さしたる騒ぎの内に入らない。大八車より大きなライオンを手なずけているよな、破壊力のある犯罪集団相手にたった一人で大殺陣回りを繰り広げるわ。千年という樹齢の大桜を乗っけてしまえるほどの船を操る割れ頭の海賊一味を、やはりやはり素手でからげてしまえるわ。ごくごく一般の親分さんならば、この内の1つで十分 しばらくほどは武勇伝に困らぬだろう、とんでもない事件や荒ごと騒ぎに、巡り合わせが良いんだか悪いんだか、山ほど縁のあるお人であるがため。空き巣や掏摸を現行犯で追っかけて取っ捕まえたり、鳶職のお兄さんと賭場の用心棒のケンカの仲裁にと飛び込んで、双方ともに叩き伏せるくらいは、騒動のうちに入らないという感覚になっておいで。なので、年の瀬からこっち、結構な大仕事を片付けていても、今日のご城内での騒動だって、そうそう起こるよな それじゃあないのに、いいお正月だねぇで澄ましていられるという次第。

 「…どうやら、何てことは起きてねぇみたいだな。」

 一応、町並みの外れあたりからもっと先の場末までへと伸してって、冬ざれての土くればかりという寒々しいくらいの畑や、それを片側に眺める格好で街道へと続いてる川辺の土手道なんかを望める、本当に端っこの方までをと歩んで歩んで。ずっとずっと遠くに見える山並みを背景に、乾いた冬空には様々な形の凧が勢いよく揚がってる。ずんと高みへ泰然と収まってる奴凧の傍らに、真四角のがするするっと上って来、しきりと右に左に流れるように躍っているのは、喧嘩勝負を持ちかけているのか、

 「いやいや。あれはただ単に下手っぴぃだからでしょうよ。」

 地面に近いところと上空とじゃあ風の強さも違う。今、空の上じゃあ穏やかな地上と違ってあんまり定まってない気流なんで、それに振り回されて、あんな風に躍らされてるってだけですぜと、彼もまた凧揚げ名人のウソップが鼻高々に言ってのけ、

 「あの辺りはそうでなくとも山颪のきついのが吹いてますから、
  慣れた者には高みへまで揚げられる絶好の場所だけれど、
  慣れのない者には荷がかちすぎる。」

 いかにも玄人のように言うものだから、呆れたのかそれとも素直に感心してか、

 「そんじゃあお前、ひとっ走りしてって手伝ってやんな。」
 「はい?」

 胸高に腕組みしたまま、親分、唐突なことを言い出した。

 「気がつかねぇか? あの凧はウチの長屋の子供たちのだ。」
 「あ…。」

 ほれ、あの凧の下地。鋳かけ屋の熊さんチの障子を、張り替えるんならってんで そおっと剥がして貰ってたやつだ。あれをあちこち補強して、昨夜の遅くまで、大晦日だってのに一つところに集まってわいわいと作ってやがっただろうが。へえ、そういやそうでしたね…と。ウソップもまた、妙な頃合いに集まった和子らが、一体何作ってるんだろかと怪訝に思ったので覚えており。実は彼よりもう一歩ほど、裏の事情をお聴きの親分、

 「あっちの奴凧は裏だなのご隠居のでな。」

 随分と遠い凧合戦への裏話、ちょいと楽しそうに紡ぎ始める。

 「若いころには凧揚げ名人として名を馳せたっていつも話しておいでなんだが、
  そんなに器用そうにも見えないんで、チビさんたちゃあ本気にしてない。
  そこで、じゃあ勝負しようってことンなったらしくてよ。」
 「うわあ〜〜、そりゃあ無謀だ。」

 さすがは凧揚げ名人で、ウソップもまたそのお爺さんの素性は知ってたらしい。

 「確か祭りの山車に乗っける、張り子人形の細工でも有名な、
  細工ものや指し物の名工ですぜ。」

 今は息子と弟子に店を譲っての隠居だっていう話、まま、長屋のチビたちにゃあ縁のない世界のお人だから、知らなくたってしょうがないが…と。どれほど凄いお人かを口にしたので、

 「多少は手加減もしてくださろうが、
  それにしたってあんまり腕が違い過ぎんのも可哀想だろ。」
 「そうっすね。」

 ご隠居のほうだって、このまま勝ってしまっては大人げないし、そうかといって既にああまで高く揚げてちゃあ、もはや引っ込みがつかないことだろし。

 「歯が立つかどうか、とりあえず加勢に行って来ます。」
 「おお、頑張れよ。」

 言いながら駆け足が始まっていたほど気が急いていたので。ウソップ、迂闊にも気がつけなかった。そんな楽しい騒ぎなら、この親分が一枚噛んでの混ざらぬはずがないってこと。どびゅんっと駆け出し、土手を駆け降りての畑の畦を結構遠くまで。原っぱ目指して駆けてった下っ引きくんを見送って。…………さて。




    ◇◇◇


 別に故意に追い払った訳じゃあない。ウソップだって知ってることだし、何より疚しいことじゃあない。場所を提供してくれたのは、チョッパー先生が師事してるそりゃあお偉い蘭学の先生とも知り合いだっていう、不思議な黒髪のお姉さんで。そこにはあの、ちょっぴり困った素性の新顔も匿われており、

 「おや、ルフィさん。あ、いやいや、親分さん。どうも こんにちは。」
 「今日の挨拶は、あけましておめでとうだぞ。ブルック。」

 黒地の袷の上へ、割烹着みたいな型の濃灰色の上っ張りを重ね着て。お顔には目許の下あたりに紐で回して絽の口蓋布を下げとく形のますくをして顔を覆った、なかなかに長身な人物が、清潔そうな宿坊の土間を丁寧に掃き掃除しておいで。手には鹿革の薄手の手套を嵌めており、パッと見ただけでは…重装備ながらもこういうところではこういうものかと納得させる、衛生士のお人かと思ってしまうところだが。実は実は、いつぞやの騒動で知り合ったところの不思議な骸骨さんじゃあありませんか。………成仏しとらんかったんですね。

 「いえ実はですね、うっかりすっかり忘れていたのですが、
  わたくし、例の策謀によって暗殺された直前に、
  不思議な実を食べさせられまして。」

 それが…反魂回帰の効果がある、例の悪魔の実だったとかで。
「道理で、私の身体、ばらばらにして封印されてたワケですよね。」
 一旦死んでも甦ることが出来る能力なのが、すぐさま働いちゃあ何にもならなかったから。頭蓋骨以下、バラバラにして隠したんですねぇと、納得しきり、うんうんと頷いて見せるもんだから。

 「そんなことを納得しててどうするか。」
 「あ、すいません。」

 気の毒がるのさえ馬鹿馬鹿しくなるじゃないかと。その境遇へいたく同情したトナカイドクターさんが、奥の間からとたとた出て来てそんなツッコミを入れたところで…もうお判りでしょう。此処は、チョッパー先生がお勉強と実務を兼ねてお勤めしている療養所。藩主コブラ様の直轄という扱いなので、大病だが貧しいので医者にはかかれぬという者を無料で診察してもおり。但し、一応の身元審査が厳しいのと、町医者に恵まれた藩だという背景事情から。それほど深刻な…外来患者が引きも切らずで押しかけの、先生がコマネズミのように働きのというような、逼迫した空気はとんとない。入院しての経過監督が要りような患者も今は皆無で、チョッパー先生にしても、
「今日は大先生はいないぞ。藩主様の宴席にお招きされてる。」
 なのでと、此処のお留守番に呼ばれた彼だったらしく。使いの人が彼らにも豪勢な折り詰めのおせちをくださったので、お正月気分は十分に味わえたらしい。

 「ちょうど良かった。親分からも言ってやってくれよ。」
 「何がだ?」

 ブルックが骨関係の冗句を言うのはしょうがねぇぞ。いやそっちは大先生とセンスが合うらしくて一向に困ってないんだけれど。違う違うと何か追い払うように手を振って見せたチョッパー、

 「意見してほしいのは、あのお坊さんだよ。」
 「………ゾロか?」

 とあるお武家の屋台骨がかかわる一件だったので、表向きには内緒だが、秋の終わりに起こった奇妙な事件があって。着物や装備でぐるぐる巻きにして誤魔化しているけれど、実は白骨で骸骨のブルックさんが、喋れる骸骨として登場したことで露見した、不思議で物騒な因縁のからんだ とんでもない一大事。大太刀振り回すお武家様たちが絡んだ事件であったがために、不覚を取っての怪我をした誰かさんをも、ブルック同様、こそりと匿っているのがこの場所だったりし。

 「ゾロ。チョッパー先生を困らせてんだって?」

 宿坊は療養用の棟でもあって。そこの奥まった一室、高さのある寝台になってる寝床に胡座をかいての座っているのが、緑頭の男性が約一名。
「困らせるも何も、もうすっかりと治ったからって言ってるだけで。」
「何が“治った”だよっ。」
 傷口の抜糸が済んだってだけで、それにしたって、一度開いたの、もう一回縫い直したんだぞと。ぴょいぴょいと飛び上がってまでして、憤慨しつつ言いつのるトナカイの先生であり、
「ゾロが治りが早いほうらしいのは、何となく判らんでもないけどよ。」
 不思議な体質だとか言うんじゃなくて。妙に場慣れしているその上、例えば…此処への切り傷だと力を入れた方がいいのか弛緩させといた方がいいのかとか、此処への打ち身は冷やした方がいいのか暖めたほうがいいのかとか、そういう“理
(ことわり)”にも通じてもいるようなので。全くの素人が“自分の身体だ自分が一番良く知ってる”なんて言うのよりは当てにしても善さそうだけれど。

 「でもな? 完全に治ってからじゃないと こっから出す訳にはいかねぇんで。
  そいで、俺が無理言って入院させてもらってんだぞ?」

 判ったか?との上目使いで念を押す親分に、

 「う……。////////」←あ

 判りやすくもたじろいだお坊様。それでも気を取り直すと、
「何でまた、完全になんて念の入ったことを?」
 そんなことを訊いている。あの騒ぎの後に、親分と逢う機会が全くなかった訳じゃあないけれど。その頃合いは、成程まだ深い傷だったしと大人しくもしていられたもんだから、あんまり深く聞きはしなかった。見舞いにとやって来たドルトン氏が、連絡係である自分が出入り出来るよう、この藩の隠密らしきあの女性が計らってくれたと言っており。そちらの顔を立てる必要もあるかしらと、そうとも思っての大人しくしていたものの、まさかに年を越してもまだ出して貰えないとは思わなくって。他の誰よりもこの小さな親分さんのお顔を潰すのだけは避けたくて、振り切るなり脱走するなりする前に、一応訊いてみたところが、

 「だってよ、元はお侍さんの雲水だなんて。
  奉行所や評定所に呼ばれたら、痛くもない腹さぐられんじゃね?」

 ああ、腹は痛いんだったな…なんていう、冗句のつもりか天然からか、とぼけた言いようをした親分さん。屈託ないまま“あはは”と笑った。ああそういえば、あの不思議な骸骨が絡んだ騒動のおり、この親分さんは…お坊様の素性について、新しい勘違いをまた1個抱えたのだった。お武家様との関わりがあっての、刀の使い手だったり、作法を匂わすような冴えた身ごなしだったりするのだろうと思い込み。先にそうと解釈させといた…単に僧籍を剥奪されたって身なだけじゃあなくて、実は実は本人からしてお武家様だったから。どんな練達やどんな頭数を相手にしても怯むことなく凄腕を披露出来、余裕でからげて来れたのだろと。そんな可愛らしい勘違いをしてくれたので…幕府からの公儀隠密とバレるよりはマシだったけれど、あああ、これでまた妙なごり押しが出来なくなる嘘をひとつ、抱えたことになりはすまいか。現に、ルフィが案じてくれてるややこしい状況に陥ってるし。まあ確かに、この地の奉行所で取り調べを受ける訳には行かないけれど。だが、そうなったとて、そんなに慌てるまでもない。衆人環視の中であれ、逃げる術くらいは心得ているし、そこまでの大ごとにしなくとも、あの黒髪の女隠密さんがどうとでもしてくれそうな気もするのだが。

  ―― ただ、あんまり派手なことをすれば、この藩にはいられなくなる。

 あくまでも部外者として、秘密裏に藩政や治安を監視するのがそのお勤めなれば。顔が割れたらそんな隠密という役職を貫けなくなる。極端な話、疚しいことを抱えている藩だったなら、速攻で濡れ衣着せられて、口封じを兼ねた処刑へと運ばれもするような立場だから、正体が明らかになれば おさらばが原則。迎合性がないというか、はみ出し者というか。昔っから一匹狼ではあったので、様々な土地を転々として来たのは、これまでずっと、当たり前のように通って来た道。正義なんてもんには関心がないけれど、だからと言って要領のいい奴が悪どく立ち回っていい眸を見てばかりいるのも向かっ腹が立つ。そんなややこしい性分だったので、真っ当な評定をされれば最低な評価しかつけられようがない身だが、実際に接すれば妙に気分のいいところ、見る人が見れば判るがため。気がつきゃこういう役職についており。成程、自分にはこういう、浮草のような身となっての職務が性に合ってるって訳かと納得しかかっていたってのに。

 「んん? どした?」

 餅まきの最後、これはおまけと撒かれたとかいう蜜柑をば、あんまり器用そうじゃない手つきでむいむいと剥いて、中の房を半分こするとほれと差し出す無邪気な少年。親分が食いもんを誰かに分けるなんてと、ウソップが見たらば引っ繰り返るなんて事情はまだ知らない身だが。

 「…何でもねぇ。」

 隠しごとや嘘が下手で、何へも一途で一生懸命。ドジを踏んでも落ち込まず、いつだって前向きで、お天道様みたいな親分さん。

 “今年も此処が任地だってのは変わらねぇけどよ。”

 年末に出される次の年度への辞令。それによればまだこの地にいていいとのことで、そっちへは何とか胸を撫で下ろせたものの、そうだったことへどうしてこうまでホッとするのだろうか。どうして…この親分と引き離されるんじゃないかと思うと、柄にないほど落ち着けないのか。

 「すいませんが、親分さん。」

 ほとほとと戸を叩く音がして、おうよと応じると、少しほど開いた引き戸の向こうにはお顔をほとんど隠した衛生士殿が立っており。

 「お留守番を頼めますか?」
 「おや、どうした?」
 「いえね、チョッパーさんと一緒に、
  河原まで七草のお粥に使う春の七草をね、摘みに行くんですよ。」

 園内の畑にもあるこたあるが、野生のものの方が滋養も豊かで香りもいいので。種を採るのにって交配する株を、探して来るんですってと。お務めのためのお出掛けだという説明をし、それじゃあと廊下を去ってく長身の衛生士。ああそういえば、あの彼もこの親分に救われたとか言ってたな。チョッパー先生も、この藩へ来たおりに一番最初に友達になってくれたのはルフィだったとか言っていた。さもありなんと笑ったその同じ間合い、ちょっぴり胸の奥が痛んだのもホント。誰へでもあっけらかんと接するおおらかな君なのが、誇らしいけどちょっぴり寂しい。自分にだけの特別を、1つでいいからおくれと思う。

  「どした、ゾロ?」
  「なんでもねぇよ。///////」

 ふいっとそっぽを向いたけど、途端にむうと膨れたルフィだとお背
(おせな)で判ってしまうのが、そっちは嬉しい、現金なゾロだったりし。初春を迎え、またちょっとだけその狭間が埋まって近寄ったような、そんな初々しいお二方。今年こそは……何がナニしてくれればいいんですけれどもねぇ?


  何はともあれ、今年もどうぞよろしくお願い致しますvv





  〜Fine〜  09.01.07.

  *カウンター 300,000hit リクエスト
    貴子様 『“ルフィ親分捕り物帖”設定で』


  *いやあ、いよいよの大台ですね。
   このところは数字自体にあんまり注目してなかったのですが、
   さすがにこうまで大きいと、おおおとか思ってしまいます。
   これからも…ちょいとペースは落ちてますが、
   頑張って書いてゆきますので、どうぞよろしくですvv

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